「わたしたちも!」と、大阪・兵庫などからも参加のあった今年3回目のどんぐりプロジェクト。30数名で1,087本の苗木を植えました。回を重ねるごとに、どんどん植える本数も増えてきています。苗植え初年度の場所をお手入れするなど、年月の重なりも感じますね。
ラ コリーナ近江八幡のベースキャンプとも言える、たねや農藝。建築設計をしてくださった京都大学准教授 小林広英先生へのインタビューです。
第四回目は、建物を作るプロセスと、設計アイデアについてです。 ※第三回目の内容はこちら。
小林 | 建物の設計では、山本社長との対話で生まれるキーワードを手がかりに詳細設計を進めることが多かったです。 |
小林 | 私の志向としても、なるべくシンプルに、素材感を活かした設計を目指しました。一方、山本社長も、鉄はさびてもいいんだということを言われる。 |
― | 小林先生も、そういった使い方は良いというお考えでしたか? |
小林 | はい。その感覚はわかります。普通ペンキを塗るところをあえてしない。そのような素材の扱い方や使う場所を考えながら設計しました。 |
小林 | 素材を活かす設計は経年変化の状況も評価するエイジングの作法です。勝手な想像ですけど、お菓子にも通じるところがあるかなと思ったり。 |
― | そうですね。うつりゆくもの、うつろうものに、美しいなと思う感性は、おそらくあるのではないでしょうか。自然を感じさせる、ゆらぎのあるものにも惹かれているように感じます。 |
小林 | そうですね、いつも社長は「店舗みたいにするな」「きれいに作りすぎるな」と。そういう、打合せで出てきたキーワードを自分で再解釈しながら設計を進めました。 |
小林 | 実際の素材選定では、アキムラ フライング・シーの中谷さんや西野さんと議論したプロセスも大きかったですね。インテリアを担当された匠プランニングの土井さんとの調整も重要でした。 |
小林 | あとは、さっきのヒューマンスケールの話に関連していうと、アプローチは妻側だけこちらに向いてコンパクトに見えます。全体のボリュームはその後ろに隠れている。ちょうど森の中に小さな家が二棟あるような感じです。 |
― | 遠くから見たときは、あえて、小さく見えるようにと考えて。 |
小林 | 建物に近づくにつれて全体が見えてくる。 |
小林 | また内部空間の工夫としては、等間隔に配置された柱を少しずつずらしています。ほら、柱ずっとずれてるでしょ。 |
― | ずれてる?あ、本当ですね。 |
小林 | あちら側が狭くてこちら側が広い。広い部分を見ることで全体的に広がりを感じることができます。多くの人が建物に入ると「思ったより広いですね」とおっしゃるのは、このような仕掛けがあるからです。 |
― | なるほど。中の空間を広く見せるために柱を… |
小林 | あえてずらしながら配置する。 |
― | はい。建物自体もカーブしていますから、とても複雑なことになっています。 |
小林 | 栽培棟の入口を見てください。入口の前に障壁がないでしょ。ずらすことで、正面がスカーッとしています。 |
― | 扉はあくまでも真ん中なんだけれど、ということなんですね。 |
小林 | 機能的にもモノが入れやすいとか、視覚的にも抜けていて気持ちがいいです。 |
― | 言われてみると、あっ、と気づくのですが。体感としては、なんというか、さりげないですよね。ごくごく自然で心地いいです。 |
小林 | 柱を真ん中に置いていたら、全然違うと思います。 |
― | おそらく、もっと窮屈でカチッとした印象になるんでしょうね。 |
小林 | すごく固い感じになる。 |
― | そのさりげないのが、成功というかんじでしょうか。 |
小林 | そうですね。でも、中谷さんや工事の方は、だいぶん苦労されたので、何きれいなことばっかり言って、と言われると思いますが(笑)。 |
※次回、最終回は、みんなで作った建物であること、そして、風土建築につながるお話です。お楽しみに。
38名の参加で945本の苗木を植えました。急な斜面は一苦労、なだらかな斜面はスピードアップで。晴天の下、皆で爽やかな汗を流しました。
今年初のどんぐりプロジェクト。376本の苗木を植えました。前回植えた箇所には、保湿と栄養を与えるバーク敷きも。バケツリレーの楽しい掛け声で、みんなのパワーが一つになりました。
ラ コリーナ近江八幡のベースキャンプとも言える、たねや農藝。建築設計をしてくださった京都大学准教授 小林広英先生へのインタビューです。
第三回目は、地域資源との関係についてです。 ※第二回目の内容はこちら。
小林 | 実はたねや農藝を設計させていただくときにお願いしたのは、裏手の竹林の整備とからめるような仕組みづくりをさせてほしいということだったんです。 |
― | 最初からおっしゃっていたのですか。 |
小林 | はい。それをやらせてもらえたら、ちょっとえらそうなのですが、やりたい、みたいな。 |
― | それはやはり… |
小林 | さきほど説明しましたように、現代社会における地域資源と建築との結びつきを考えるということですね。ここでは、竹の循環的利用と里山整備を施設運営の一部に位置づけるということです。 |
小林 | このようなコンセプトをたねや農藝では実現できる可能性があります。バンブーグリーンハウスでも同じようなことを考えていましたが、一棟での竹材利用量はしれている。 |
― | はい。 |
小林 | でも、ここでは実際の企業活動に取り込むことで、里山環境へのインパクトを有しています。 |
― | 今まで鬱蒼としていた竹林が、まるで生き返ったようです。 |
小林 | 整備できていますでしょ。ちゃんと現実的に結びついてる。 |
― | はい。竹チップになったりして、大いに活用されています。 |
小林 | そうです。チップはランドスケープを担当された重野さんのアイデアなんですが、あとは、トラクターの屋根付きシェルター、山野草や農作物の栽培棚などいろいろな場面で竹用途を考えています。 |
― | 竹を使うというひとつのアイデアが、色んなところに結びついてきていますね。 |
小林 | 無理矢理じゃなくて、実際の活動のなかで結びついている。 |
― | 繋がっています。 |
小林 | 個人的にもすごくやりがいがありました。建築デザインのおもしろさだけでなく、竹林整備と結び付けて実際の建物を設計できることは大きかったです。 |
― | それは嬉しいですね。 |
小林 | はい、すごく嬉しいです。 |
小林 | 山本社長が言われていましたが、今まで放置竹林の前を車で通り過ぎていた地域の人が、最近はきれいな竹林を見ながら歩いて通られるようになったとか。 |
― | 作業をしていると、声をかけていただいたり。 |
小林 | やっぱり、いろいろなところに影響していますね。 |
― | はい。いろんな広がりが。 |
小林 | 竹林の整備作業もたねやの従業員の方々にご協力いただきました。最初は手間取っていたのが、だんだんと熟れてくる。手を動かすことでいろいろな技術や知識が蓄積されていくように思えます。そのような活動を誘発する施設と考えたら、やっぱりすごく意味がある。この地域に建ってる意味が見えてきます。 |
― | 深い。 |
小林 | けっこう深いでしょ(笑)。 |
― | 先生のお考えになっていることと、わたしたちたねやグループが、地域に根差して、土地に根差してやりたい、と想っていることが、本当に合致していますね。 |
小林 | 私は知らなかったのですが、たねやでは以前から、どんぐりプロジェクトなどに取り組んでいたのですね。 |
― | はい。5年前からやってます。 |
小林 | それも、地域の資源をもう一度利用させてもらうという点で同じような理念を感じます。 |
― | お菓子屋の域をこえて、いろんな方々と交流していきたい、という想いも、ここでは叶えられるような気がします。 |
小林 | 百菜劇場のハウスで農夫と間違えられたことから始まって… 何か不思議な感じがします。 |
― | そうですね。ルッキさんと小林先生がお会いされたとき、わたしもその場にいたのですが、バンブーグリーンハウスを見たルッキさんは、「とてもエレガントだ」とすごく称賛されていたのを覚えています。 |
小林 | 本当に、不思議なご縁です。 |
※次回、建物を作るプロセスと、設計アイデアについてのお話につづきます。お楽しみに。