よもぎ | 2018年7月9日  11:08
Text : 讃岐和幸(たねや農藝 永源寺農園)

みなさまによりおいしいお菓子をお届けするために、よもぎの香りの深層に迫る旅。
立命館大学薬学部教授の田中謙先生にお話を伺いました。田中先生のご専門は生薬学、天然物化学。
昆虫と植物が相互作用を研究し、品質の高い生薬をどうやって作るかなどを研究されているそうです。

昨年からスタートした共同研究

今回はご縁があってたねやのお菓子に使っているよもぎの香りについて研究をお願いしました。
当初はどういった印象を持たれていましたか?
田中 植物は自然の中で自分たちに優良な成分をつくります。それを人が健康に寄与するなどとして利用しているのです。植物は決して人のためというわけではなく、自分が生きるためにつくり出している。こうした実際の生理反応を我々がうまく利用するというところがあって、その一例として、お菓子の分野でどういう状態のものがお菓子に良いのか研究されていて、非常に興味がありました。

共同研究は2017年5月からスタートしました。
よもぎの香りは成長段階でどう変わっていくのか、茎の上・真ん中・下のどの部分の葉っぱのが良いのか、
収穫時期によってどう違うのかなど、異なった条件下のデータを収集するため、定期的によもぎを採取して、研究室へ送らせていただきました。

よもぎの香りについて具体的にどんな工程でどういったことを調べていただいているのでしょうか?
田中 この葉から成分を抽出して、ガスクロマトグラフィーという方法で分析しています。よもぎが春から夏、秋にかけてどういう成分の変化をしていて、経験的にたねやさんがこの時期のよもぎが良いとご存知のものがあって、その時はどういう状態にあるのか。今までの経験で蓄積されていた情報を科学的に解明、分析することで分かったことが、今後よもぎを生産する上で安定的によい規格のものがつくれる、といったことにつながっていく。そういうところに寄与できたら良いと思います。

昨年1年調べていただいて、分かってきたことは?
田中 春先からだんだん成分が増加し、秋になると収束して元に戻ってくるという一つのサイクルがある、ということです。去年の分析では、増えていくパターンが何通りかあり、よもぎの中でも性格があって、増えて減っていくという経過や最初のスタートポイントは似たところがありますが、それぞれ違う小部屋に向かって伸びていく。そういったことから、香りの成分として人が匂った時に違う感覚を受けるだろうということですね。

生薬とお菓子

たねやでは新たに“健康×お菓子”という分野でも開発を進めています。
先生のなかで何かお菓子づくりに活かせそうだという植物はありますか?
田中 生薬には、実は食材とかぶっているものが多いんです。ショウガ、ナツメ、サンショウ…
ただ、例えば薬に使う金時生姜は食材のショウガに比べて薬効成分は多いですが、非常に辛い。
味が大事なお菓子にとって、苦みや辛さが強いと難しいのではと思いますね。
それがうまくコントロールできれば高い機能を持ったお菓子がつくれるのかもしれないですね。
なるほど。とても参考になります。
田中 ナツメは大棗(たいそう)とも言われ漢方薬の30%含まれていますが、実としても非常に美味しい。また、ミカンは温州みかんの皮やダイダイの未熟な果実を漢方薬にするのですが、皮を使ってみるというのもおもしろいかもしれないですね。ただ、こういった生薬には食薬区分があり、何でも食品として使用できるわけではないので気をつける必要があります。

心の健康が体の健康に

よもぎの成分にはどんな特徴があるのですか?
田中 主なものとして殺菌成分があげられますね。
また、もぐさ(よもぎの葉の裏にある繊毛を精製したもの)がお灸に使われていることも有名です。
よもぎなどのキク科は、植物の中では進化が進んだ植物で比較的高活性の成分を多く含んでいます。

昔からよもぎ餅などにして食べられてきたことも、人々の知恵ですね。
田中 漢方では“心身一如(しんしんいちにょ)”と言いますが、心と体が一体で、心が健康である状態が体も健康にするという考え方があります。おいしいものを食べてハッピーになれば、それは体にも良い影響を与える。そういうことと関係しているのではないでしょうか。
その考え方にはとても共感します。よもぎは香りもとても良いですよね。
田中 漢方薬は煎じた時にかなり強い臭いがします。実は、あの香り自体が薬であって、あたたかく香りが立った状態で飲まないとだめなんです。臭い、香りというのは重要で、そこから刺激を受けて健康や自己免疫を立て直すことにつながる。そのなかでも、香りを楽しむというのはとても重要なんです。


今回田中先生から教えていただいたことは、私たちたねやが長く大切にしてきた“お菓子を季節と共にお届けする”ということと、不思議と通じるものがあると思いました。
季節をお届けするということは、旬の素材のおいしさをお菓子に込めるということ。それは決して味だけのことではなく、季節の香りや彩りをお菓子を通して感じていただくということです。
そして、その体験が人々の幸せにつながってほしいと、まさに“心身一如”を願ってきました。

お菓子づくりと科学。一見共通点はないように見えますが、私たちが持たない科学的な技術や技能に力を貸してくださるとても心強い存在であると、今回改めて感じました。こうした様々な分野のエキスパートにご協力いただき、これからも“よりおいしいお菓子”を追求する旅を続けていきます。

田中先生、学生のみなさん、研究室にお招きいただきありがとうございました。
これからもよろしくお願いします!

※よもぎの香りの旅(上)【滋賀・立命館大学】もあわせてご覧ください。


よもぎ | 2018年7月4日  09:54
Text : 讃岐和幸(たねや農藝 永源寺農園)

より良い「よもぎの香り」を求めて…

たねやのよもぎのお菓子に欠かせない無農薬・自社栽培のよもぎ。
春を象徴するあざやかなグリーンの新芽は、その爽やかな香りがあんこやお餅などの和菓子の素材とも相性が良く、五感で“おいしい”と感じさせてくれるとても重要な季節の素材でもあります。
一方で、よもぎは古くからさまざまな効能がある生薬としても用いられてきました。


たねやには「たねや饅頭 よもぎ」や「近江ひら餅 よもぎ餅」など、よもぎを使った季節のお菓子がありますが、ある時、製造部門から「最近よもぎの香りが弱くなっている気がする」という意見があがりました。
たねや永源寺農園の園長を務める私は「なんとかしなければ」という気持ちがありました。
20年間にわたり、近年は年5トンほど順調に収穫してきましたが、どこかに原因があるのかもしれません。
どうしたらより良いよもぎが収穫できるだろう…
そこで専門家のお力も借り、よもぎの香りの深層に迫る旅がはじまりました!


昨年からスタートしたよもぎの調査。
まずは自社農園の畑から、無農薬で育てているよもぎを採取します。

よもぎの部位や採取する時期など条件を変え、どのような状況下のよもぎならより良い香りがするのかを調べるためです。

採取した葉を細かく刻んで容器に詰め、それぞれ重さを測ります。

私たちができるのはここまで。ここからは専門の先生のご協力を得て、分析していただきます。


今回は特別に、分析の様子を見学させていただくことになり、滋賀県草津市にある立命館大学へ。
薬学部教授の田中謙先生を訪ねました。
「田中先生、こんにちは!」

研究室では、田中先生と学生さんがよもぎの分析を進めてくださっていました。先生のご厚意で分析の工程を見せていただくことができました。

まずは検体であるよもぎの葉に液体窒素を加え、凍らせて細かく砕きます。

そこに酢酸エチルという薬剤を入れ、よもぎの香りの成分が溶け出すようにします。

そうして溶け出した成分がこの青い蓋の容器に入った黄緑色のもの。

それをさらに、機械を用いて分析していきます。

画面のグラフがよもぎの中に含まれている香りの成分を示しており、グラフの線の山が、一つ一つの化合物に対応しているそうです。山が高い部分はその成分が多く含まれていることを指し、よもぎの香りがたくさんの化合物によってできていることが分かります。

田中先生によると、
「基本的には山の大きさと匂いの強さは比例し、人はよく感知しているのですが、例えば腐った匂いなど自分に対して危険があるようなものには、人の感覚はすごく敏感なので、量が少なくても分かるものもあります」とのこと。人間の本能の不思議さを感じますね!

そして、その化合物がどういったものかというのは、また別の機械で調べる必要があります。

「この装置では、この物質はこういうものですという構造式がここに表示されます。例えばこの構造式の物質はフェンネルなどにもたくさん入っているのですが、人間の体内に入ると幸福感が刺激されるという薬理作用が分かっています。ということは、人が食べて“おいしい”と満足することつながりますよね。一方で、虫にとっては嫌な成分で虫に対しては別の働きがあったりもします」と田中先生。

これまでの分析で、よもぎを採取した時期や地域によって、一方はこの成分が多い、一方はこの成分が少ないという結果が出ているそうです。つまり、よもぎの部位や育った環境によって少しずつ香りが違うということが分かってきました。

「我々は機械で測り、どの成分がどのくらい含まれているのか分かりますが、“お菓子に良いおいしい香り”というのは(和菓子職人の)経験からきているものがあります。そこで、科学の部分と人の経験の部分を合体させると、商品としては常に高いクオリティーのものがつくれる、ということになるのではないでしょうか」
と田中先生は考察されていました。


田中先生がおっしゃるように、お菓子をつくり続けてきた私たちの自信と専門的な見地が融合すればとても説得力があります。私たちがお菓子屋としてはできないアプローチで素材の真相に迫る田中先生。
長年お菓子の素材として見てきたよもぎの違った一面を教えていただき、とても勉強になりました。

昨年調べていただいて分かったことは、早速今年の収穫に取り入れています。
一つは、よもぎの上の方の葉が下部のものより香りが強いということ。これは、“一芯三葉”と呼ばれる新芽のやわらかな部分だけを手作業で丹念に摘み採ろうと、今までもたねやで大切にしてきたことでもありますが、農園スタッフでさらに徹底しました。
もう一つは、ある程度育ったよもぎの方がしっかりとした香りを放つということ。今年から小さいものは取らず、必ず40cmほどに育ったよもぎを収穫するようにしました。
今後よもぎのお菓子をつくる製造部門にもしっかりとフィードバックを受けたいと思っています。

※よもぎの香りの旅(下)【滋賀・立命館大学】に続く


新素材に出会う旅 | 2017年10月3日  10:30
Text : 小野林範(クラブハリエ 八日市の杜)

みなさん、こんにちは。今回の素材をめぐる旅の舞台は、滋賀県東近江市永源寺(えいげんじ)。
今や“まぼろし”とも言われる特産のお茶「政所茶(まんどころちゃ)」について、クラブハリエ 八日市の杜セクターシェフの小野林範がお伝えします。

5月19日、私は店舗スタッフと共に滋賀県東近江市、旧永源寺町の東部、政所(まんどころ)と呼ばれる地域に向かいました。この日は、ご縁があって「政所茶」の茶摘みを体験します。山道を進む道中、想像以上の雄大な自然とおいしい空気に期待は膨らみす。

今年1月、「八日市の杜」のオープン以来、私がお客さまの目の前でデザートを仕上げお出しする「シェフズカウンター」では、地元特産の素材を積極的に取り入れてきました。その中の一つが、「政所茶」です。

以前からその噂は聞いており、素材の提供をお願いしたのが山形蓮さん。2014年から地域おこし協力隊として、そして現在は「政所茶縁の会」という団体で政所茶を後世に残し、伝える活動をしている生産者です。

政所に到着すると、さっそく山形さんが茶畑(山形さんは“ちゃばた”と呼んでいました!)へ連れて行ってくれました。民家の間の小道を抜けると、鮮やかなグリーンが見えてきました。
家々の間に点在する茶畑は、この地域の人々とってお茶がいかに身近で密接な関係だったかが分かります。

「昔から、ここの人たちの生活にはなくてはならないものだったんです」と山形さんが教えてくれました。

茶畑の一角では、地元東近江市の八日市南高校の生徒さんが作業をされていました。お話を聞くと、「玉露をつくるために、茶葉にこもをかけます」とのこと。詳しく教えてもらいながら、お手伝いさせていただくことにしました。
玉露とは日本茶・煎茶の一種で、日光を遮ることで茶葉に含まれるテアニンという成分を増やし、旨みの強いのが特徴。以前は政所地区でもつくられていましたが、より手間と労力がかかる玉露生産は数年前に途絶えたといいます。そこで、今回復活に向け、高校生のみなさんが奮闘されていました。

今回かぶせる「こも」は、藁(わら)を手編みした昔ながらのもので、生徒のみなさんが約2年をかけて約100メートルを編み上げたそうです。市販のものを使えばこの手間はかからないのでは?と思われるかもしれませんが、この「こもを編む技術」さえも今では途絶えようとしている大切な技なのです。

山形さんと共に作業を見守っていたのは白木駒治さん。山形さんにとって、“お茶の師匠”である白木さんの指導のもと、昔ながらの方法を受け継いでいます。

私たちも、こもをヒモでつなぎ、木組みに被せる作業を手伝わせていただくことに。

高校生のみなさんとも息を合わせて、こもを固定していきます。

こもの上に雨が降ると雨露が藁の甘みを吸って葉に落ちるため、市販の遮光ネットよりも美味しいお茶に仕上がるのだとか。

昔ながらの手仕事は、すべてにこういった意味を持っています。常に自然と共にある先人の知恵の偉大さに、あらためて感銘を受けました。

こもの屋根の下のお茶たちは、柔らかい日差しを受けながらも適度に影が落ち、見ていてとても気持ち良さそうでした。澄んだ風が吹きわたっていました。


糯米 | 2015年12月8日  09:06
Text : 田中一弥(原材料管理室)

11月中旬の日曜、東近江市南花沢町の八幡神社で新穀祭(しんこくさい)が行われました。

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宮中で行われる新嘗祭(にいなめさい)が有名ですが、稲の収穫を祝い翌年の豊穣を祈願するこのような祭りが、古くから日本全国で行われてきました。

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それぞれの農家が収穫した新米を奉納します。

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境内では湯立て神事が行われています。

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湯立て神事では、笹で捲かれた釜湯を浴びると無病息災の御利益があると云われ、僕も子供の頃近所の神社の祭りで、はしゃぎながら浴びていたことを懐かしく思い出します。

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本殿でのお祓い。

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僕も参拝させていただきました。

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たねやも糯米をつかったお菓子、代表銘菓ふくみ天平と、秋限定販売のしょうゆ餅を奉納させていただきました。

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一年間、お米づくりを間近で見ることで、私たち日本人の生活の中心にお米があり、大切なものであり続けていることを改めて実感することができました。

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春の種もみ選びに始まり苗を育て、田植え、

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田の手入れを常に行い、

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時に自然の変化に任せ、
時に自然の驚異の前に祈り、

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やっとのことで秋の収穫を迎え、

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そして自然に感謝し、

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翌年の豊作を祈る。
地域の営みと米づくりはひと繋がりになっていて、連綿と受け継がれています。

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たねやのお菓子づくりのその前、
素材をめぐる旅は、
良い素材との出会いの物語であると同時に、その土地と人々の物語でもあります。
一年に一度しか実らない果物や穀物。
僕たちは、その一瞬を封じ込め、素材の良さを最大限生かすことがお菓子づくりだと考えています。
これからも、ひとつのお菓子に、素材をめぐる土地と人々の物語も表現して行きたいと思います。

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糯米 | 2015年8月18日  15:17
Text : 田中一弥(原材料管理室)

みなさん、こんにちは。
原材料管理室の田中一弥です。
この夏も大変な猛暑でしたね。
お盆に入り暑さも少し和らいできたように感じます。

糯米を栽培していただいている南花沢地区(滋賀県)を再び訪れました。
五月の田植えから随分と稲が成長しました。

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糯米はうるち米と比べてゆっくりと成長します。
向こうの田のうるち米はもう穂がだいぶ実って頭を垂れつつありますが、こちら側の糯米の穂はまだ小さいです。

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糯米の穂は一部が出てきたところです。
青々とした穂が天に向かって勢いよく伸びています。

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ちょうど僕の腰丈くらいの高さに成長しました。
今年は梅雨明け以降猛暑日が続き、雨もほとんど降らなかったので、稲が弱らないか心配していたそうですが、昨夜からのしっかりとした雨で一安心です。

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稲の花が咲き始めています。
一週間ほどかけて全ての花が咲き、受粉がおこなわれます。

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花が咲き始めると、農家のみなさんはあまり田に入らずに静かに受粉を見守るそうです。
自然のサイクルに任せることも、よいお米づくりの大事なポイントのようです。
それがちょうどお盆の時期に重なっているのが、とても神秘的に感じました。

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昨夜からの雨は、稲だけでなく、周辺の動植物にもまさに「恵の雨」となったようです。

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雨は現代の生活の中で憂鬱な、余計なものと思いがちですが、こういう場所にいると、人間もまた自然の一部で、その恩恵に与っていることが体感できます。

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田んぼに棲む生きものたちも雨を喜んでいるように見えます。

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5月の田植えの頃の写真です。三か月で見違えるほど大きくなりました。

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収穫まであとひと月。
ここからがまた、台風シーズンの到来であり、稲茎の倒れやすいもち米にとっては大事な時期を迎えます。
黄金の穂がたわわに実りますように。
収穫を楽しみにしています。

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