素材をめぐる旅 よもぎの香り編(上)【滋賀・立命館大学】
よもぎ | 2018年7月4日  09:54
Text : 讃岐和幸(たねや農藝 永源寺農園)

より良い「よもぎの香り」を求めて…

たねやのよもぎのお菓子に欠かせない無農薬・自社栽培のよもぎ。
春を象徴するあざやかなグリーンの新芽は、その爽やかな香りがあんこやお餅などの和菓子の素材とも相性が良く、五感で“おいしい”と感じさせてくれるとても重要な季節の素材でもあります。
一方で、よもぎは古くからさまざまな効能がある生薬としても用いられてきました。


たねやには「たねや饅頭 よもぎ」や「近江ひら餅 よもぎ餅」など、よもぎを使った季節のお菓子がありますが、ある時、製造部門から「最近よもぎの香りが弱くなっている気がする」という意見があがりました。
たねや永源寺農園の園長を務める私は「なんとかしなければ」という気持ちがありました。
20年間にわたり、近年は年5トンほど順調に収穫してきましたが、どこかに原因があるのかもしれません。
どうしたらより良いよもぎが収穫できるだろう…
そこで専門家のお力も借り、よもぎの香りの深層に迫る旅がはじまりました!


昨年からスタートしたよもぎの調査。
まずは自社農園の畑から、無農薬で育てているよもぎを採取します。

よもぎの部位や採取する時期など条件を変え、どのような状況下のよもぎならより良い香りがするのかを調べるためです。

採取した葉を細かく刻んで容器に詰め、それぞれ重さを測ります。

私たちができるのはここまで。ここからは専門の先生のご協力を得て、分析していただきます。


今回は特別に、分析の様子を見学させていただくことになり、滋賀県草津市にある立命館大学へ。
薬学部教授の田中謙先生を訪ねました。
「田中先生、こんにちは!」

研究室では、田中先生と学生さんがよもぎの分析を進めてくださっていました。先生のご厚意で分析の工程を見せていただくことができました。

まずは検体であるよもぎの葉に液体窒素を加え、凍らせて細かく砕きます。

そこに酢酸エチルという薬剤を入れ、よもぎの香りの成分が溶け出すようにします。

そうして溶け出した成分がこの青い蓋の容器に入った黄緑色のもの。

それをさらに、機械を用いて分析していきます。

画面のグラフがよもぎの中に含まれている香りの成分を示しており、グラフの線の山が、一つ一つの化合物に対応しているそうです。山が高い部分はその成分が多く含まれていることを指し、よもぎの香りがたくさんの化合物によってできていることが分かります。

田中先生によると、
「基本的には山の大きさと匂いの強さは比例し、人はよく感知しているのですが、例えば腐った匂いなど自分に対して危険があるようなものには、人の感覚はすごく敏感なので、量が少なくても分かるものもあります」とのこと。人間の本能の不思議さを感じますね!

そして、その化合物がどういったものかというのは、また別の機械で調べる必要があります。

「この装置では、この物質はこういうものですという構造式がここに表示されます。例えばこの構造式の物質はフェンネルなどにもたくさん入っているのですが、人間の体内に入ると幸福感が刺激されるという薬理作用が分かっています。ということは、人が食べて“おいしい”と満足することつながりますよね。一方で、虫にとっては嫌な成分で虫に対しては別の働きがあったりもします」と田中先生。

これまでの分析で、よもぎを採取した時期や地域によって、一方はこの成分が多い、一方はこの成分が少ないという結果が出ているそうです。つまり、よもぎの部位や育った環境によって少しずつ香りが違うということが分かってきました。

「我々は機械で測り、どの成分がどのくらい含まれているのか分かりますが、“お菓子に良いおいしい香り”というのは(和菓子職人の)経験からきているものがあります。そこで、科学の部分と人の経験の部分を合体させると、商品としては常に高いクオリティーのものがつくれる、ということになるのではないでしょうか」
と田中先生は考察されていました。


田中先生がおっしゃるように、お菓子をつくり続けてきた私たちの自信と専門的な見地が融合すればとても説得力があります。私たちがお菓子屋としてはできないアプローチで素材の真相に迫る田中先生。
長年お菓子の素材として見てきたよもぎの違った一面を教えていただき、とても勉強になりました。

昨年調べていただいて分かったことは、早速今年の収穫に取り入れています。
一つは、よもぎの上の方の葉が下部のものより香りが強いということ。これは、“一芯三葉”と呼ばれる新芽のやわらかな部分だけを手作業で丹念に摘み採ろうと、今までもたねやで大切にしてきたことでもありますが、農園スタッフでさらに徹底しました。
もう一つは、ある程度育ったよもぎの方がしっかりとした香りを放つということ。今年から小さいものは取らず、必ず40cmほどに育ったよもぎを収穫するようにしました。
今後よもぎのお菓子をつくる製造部門にもしっかりとフィードバックを受けたいと思っています。

※よもぎの香りの旅(下)【滋賀・立命館大学】に続く