季節をめぐるお菓子

冬至と南瓜 イラスト

冬のコラム

冬至と南瓜

輝く柚子に祈りを込めました

毎年12月後半になると、「そろそろ冬至だ」と、心が明るくなる気がします。冬至とは一年のうち最も昼が短く、夜が長くなる日。冬至の翌日からは〈一陽来復いちようらいふく〉で再び日が長くなっていくのですから、厳しい寒さに耐えていた昔の人たちにとって希望を感じさせる日であったことは想像に難くないでしょう。実際にはこれからが寒さの本番で、二十四節気では〈冬至〉の次に〈小寒〉〈大寒〉と続くのですが、それでも一日一日と、日が長くなる喜びの方が大きいのです。

冬至の数日前になるとスーパーや青果店の店頭には柚子が並び始めます。さまざまな年中行事が廃れつつある今でも、お年寄りから若い世代まで受け継いでいるのが冬至の〈柚子湯〉。お風呂好きの日本人らしいお話です。お風呂を沸かして柚子を浮かべればよいので簡単ですし、湯船に浮かんだ柚子を眺めるだけでも気持ちがほどけていくよう。湯上りのからだは温まってポカポカ。良いことづくしといえましょう。

庭に柚子の木がある家なら冬の間中何度も柚子湯に入り、冷えた身体を温めているでしょう。そして冬至。この日を待ちに待っていた日本中の家庭風呂で、銭湯で、柚子の実が湯船に浮かんでいるかと思うと微笑ましい気がします。最近では動物園の猿やカピバラが柚子湯に入っているユーモラスな姿も季節の風物詩となりました。
なぜこれほどまでに日本で〈冬至と柚子湯〉が定着したのでしょうか。まず、日本では寒冷な地域を除いて暖かい土地の果物である柚子が成長できたこと。庭木としても愛されてきました。江戸時代には既に銭湯に柚子を浮かべる風習があったとのこと。寒い時期が旬で、しかもお風呂に入れれば温まる効果があるとはいえ、ここまで〈冬至の柚子湯〉が全国的に定着した理由はそれだけとは思えません。実は〈冬至〉が〈湯治〉の、〈柚子〉が〈融通〉の語呂合わせになっていたからだという説があります。健康にも商売繁盛にもつながる……〈冬至の柚子湯〉は祈りに通じていたのです。

もう一つ、丸くて黄色い柚子が太陽の象徴だったからではないのかという想像も働きます。今のように明るい電気などなかった江戸時代の湯屋で、湯気の立ったほの暗い湯船に柚子が輝いていれば、翌日からまたお天道様が空にいらっしゃる時間が伸びていくのだという実感が湧いたかもしれません。その喜びに、人々の表情もまた、輝いていたのではないでしょうか。

〈南瓜〉と
〈小豆〉は
最強コンビです

冬至の日、柚子湯と
並ぶ習慣に
南瓜かぼちゃを食べる〉
小豆あずき粥を食べる〉
などがあります。昔は冬の間のビタミン不足解消が課題でした。大根や白菜などの冬野菜を日に干して、大量に漬物を漬けたのもそのため。春に採れた山菜にもきつく塩をして保存食料としました。南瓜の収穫期は初夏から10月まで。硬い皮に包まれているためか保存期間が長く、塩を使わなくても長持ちするという特徴があり、ビタミンAが豊富でありがたい野菜でした。新鮮な野菜が採れなくなる冬至の頃、ビタミン不足を補うために南瓜を食べるのは栄養学的にも理にかなっていたのです。

冬至には小豆を食べる習慣もありました。古代の中国では赤い色をした小豆は厄除の意味があるとされ、冬至に小豆粥を作って食べるのが習いだったとか。西暦500年頃の中国に生まれた宗懍そうりんの『けい歳時記』という年中行事の記録には、「冬至の日、日の影をはかり、赤豆せきとうしゅくを作りて以て疫をはらう」とあります。棒を立てて影の長さを測り、冬至とわかった日には、厄を払うために赤い小豆だけのお粥を作って食べるのです。その風習は朝鮮半島に受け継がれ、やがて日本にも伝わりました。南瓜と小豆を炊き合わせた〈いとこ煮〉も冬至にふさわしく栄養たっぷり、素朴で懐かしい味わいがあります。

冬至こそ〈南瓜〉が役立ちます

冬至に南瓜を食べるもう一つの
理由として〈運〉をつけるために
〈うん〉と同じく〈ん〉がつく
食べ物をいただくという意味が
あるとも言われます。
〈南瓜=なんきん〉もその一つ。
他には〈うどん〉〈だいこん〉や〈ぎんなん〉〈れんこん〉〈にんじん〉〈きんかん〉もあります。韻を踏む言葉のお遊びですが、無病息災を願う切ない心が現れているようにも思うのです。紙と木と土でできた家は夏には涼しいものの、冬には木の雨戸もなんのそので風雪が吹き込み、暖房も行き届きませんでした。身体の芯まで冷えるような冬至の頃、身体に力を与える食物のありがたさを昔の人はよく知っていたものと見えます。

さて、最近は欧米の〈ハロウィーン〉でも南瓜がお馴染み。あの〈ジャック・オー・ランタン〉はアイルランドのケルト人の間で生まれたそうですが、元々は〈砂糖大根=甜菜てんさい〉が使われていたのだとか。のちにアメリカへと渡ったアイルランド移民がアメリカでは甜菜が手に入りにくかったことから、収穫しやすい南瓜をくり抜く風習を生み、それが世界に知られるようになりました。今の日本では涼しい風が吹き始めるとまもなくあちこちに南瓜のランタンが現れるほどで、クリスマスともどもすっかり欧米由来の年中行事として定着しました。今では〈冬至〉より〈ハロウィーン〉に南瓜のお菓子を食べる人が多くなっているかもしれません。
でも、冬至の時期に南瓜を食べて柚子湯に入るという習慣は、何よりも身体のためにありがたいはず。いつまでも続けていきたいものです。