近江八幡

商いと社会

自分たちがいる場所をより居心地のいい場所にしようという、ごく普通の感覚。
その感覚を自分の街や世界に拡げていけばいいだけです。

近江八幡

企業が社会に貢献するのは当然のことだと思っています。生きている以上、私たちは自然を破壊しているし、商売をしているということは、それだけで社会と関わっていますから。ですからCSRや企業の社会的責任という言葉を、あえて使うことは気に入らないんです。ゴミが落ちていたらみんなで拾えばいいし、誰かが困っていたらみんなで助けたらいい。自分たちの町を綺麗にしたいと思うのは当然なこと。ただ、それだけです。街のゴミ拾いなんて、本来はみんながすべきことです。観光客もするべきだし、お客さんもするべきだし、そこに線なんて引く必要はありません。

近江には「三方よし」という言葉がありますが、近江商人も使命感だけで生きていなかったと思うんです。そうするのが、あたりまえだと思っていただけでしょう。自分たちがいる場所をより居心地のいい場所にしようという、ごく普通の感覚だと思います。その感覚を自分の街や世界に拡げていけばいいだけです。

近江八幡

東日本大震災のときに、スタッフみんなに「お菓子を持って行きたいんだけど、みんなでつくらへん?」って聞いたんです。そしたらみんながやるって言ってくれました。仕事が終わってから、お菓子を焼いて、袋詰めして。いざ持って行こうというときにはみんなが車を出してくれました。だからこれは会社がやったことじゃなくて、スタッフみんなが手伝ってくれてできたことです。

2日間で33箇所をまわりましたが、元気づけようとして行ったのに、僕らが元気にしてもらったんです。現地のひどい状況を見て、だんだん気分が落ちこんできます。気持ちがへこみながら配っていると、避難所の方がお礼を言いながら手を握ってくれたりするんです。それで逆に元気をもらって「僕ら絶対頑張ろうな」と励ましあったりしていました。はがきもたくさん頂きました。「辛い時にお菓子で元気づけられました」と。お菓子をつくって届けるという、自分たちの仕事で人が幸せな気持ちになるんだな、ということに気づいて涙が出ました。

「全力」がすべてを変える

経営で一番考えてないことが数字です(笑)。
でも、すべてに全力を注いでいれば、その何もかもダメということはありません。

近江八幡

経営で一番考えてないことが数字です(笑)。「ひとつひとつを全力で取り組んだら結果どうなるか」の繰り返しなので博打に近い。でも、すべてに全力を注いでいれば、その何もかもダメということはありません。

スポーツに感動するのは、みんな全力だから。仕事も同じだと思うんですよ。サッカーで「1回シュート入れたらいくらになります」という会話はしないですよね。全力でやっていることに対してファンがついて、同じユニホーム着て応援しようとか、グッズを買おう、となる。経済がついてくるのは後からです。サッカーをするなら、まずは素晴らしいサッカーの試合をすること。お菓子の商売をするなら、美味しいお菓子をつくること。それで、気持ちが動いたらお金を使ってくれたらいいわけです。そうならないのであれば、それは僕たちの負けなんです。すべてに全力を注ぐ。それが積み重なった姿が今のクラブハリエだと思っています。

近江八幡

お菓子は、お腹をふくらますための商品ではありません。だから、いつでも必要なくなるものだと言っています。でも誕生日にケーキが出てきて「わぁーっ」と食べたり、子どものおやつにお菓子をだして「わーい」って食べたり、テンションが上がるものなんです。200円や300円で、みんな「わぁー」ってなれるんですよ。必ず幸せを求めて買ってくれる。一番身近な贅沢やって言っているんです。

例えば誰かが誰かのために手作りの誕生日ケーキをつくったら、それは僕らでも勝てないすごいものですよね。お菓子はそういう商品なので、そこを大事にしなければなりません。だから誕生日ケーキに関しては「利益は無視してやってくれ」とスタッフに言っています。美味しいものを届けたいという気持ちを大事にしてくれと。

人を幸せにする仕事

お菓子屋は、人生の一番大事なときに出てくる職業。
そこを楽しんでやっています。

近江八幡

僕がこれまで一番嬉しかったのが、消防士になりたいという子どもさんの親から、誕生ケーキで消防車をつくってくださいという注文を受けたときのことです。消防車をちゃんと見たことがなかったので、はしご車を調べて、チョコを使って、はしごが伸びるようにつくったんです。そのケーキをあげたら、子どもがすごく喜んだという手紙がきました。子どもの字で「ありがとう」という文字が書いてあって感激しましたが、それだけでなく、お母さんの手紙に「消防士になりたいと言うのでつくっていただいたけど、あまりにも嬉しかったから、今はケーキ屋さんになりたいと言っています」って書いてあったんです。それを読んで「わー、やったー!」、ものすごく嬉しいなぁと。お菓子って、それだけの力があるんだなと思ったんです。

近江八幡

今も頼まれたらウェディングケーキをつくるんですよ、僕ひとりで。僕もブーブー言うんですよ。「この忙しいときに、なんやねん!」とか言いながらね(笑)。でも夜中に残って、ひとりでつくるんです。僕はそれがお菓子屋の使命だと思っていて。その人にとってきっと一生に一回ですよ。そういう場のためにケーキをつくれるというのは、一番仕事のしがいがあるものなのです。みんなのためのお菓子というより、ひとりのためのお菓子ですね。それもできない人がみんなのなんてできないだろうな、と。やっぱり、その人のことを思うと全力でやってしまうんですよね。

お菓子屋は世の中にある職業の中でも、人生の一番大事なときに出てくる職業なんです。愛の告白、誕生日、ウェディング、子どもが生まれたとき…人生のすべてにおいて出てくる。それを忘れて商売したら終わりです。そういう場所にいられる職業だから、そこを楽しんでやっています。

根っこが大事

僕がこだわるのは地上の木ではなく、根っこです。
クラブハリエは、植物の成長の通りになっているんです。

近江八幡

僕は会社が成長して大きな木となり、葉が繁り、花が咲き、実がなるためには、それを支える根が大事だと思っています。ラ コリーナでも、まだ植えたばかりの木を見ていると、しょっちゅう倒れています。それを見るたびに、根を張っとかなあかんなぁと思います。上を全部切って根だけを生かしても、木は生きるんです。でも、上をどんどんはやしたら、水分がとれなくて枯れるんですよ。

地上の部分がみんなが見ている世界であって、根っこは、見えないところなんですね。見えるところにみんなが憧れるから、いいお菓子をつくってきれいに飾って売ろうということになるんです。そこが商売だと思っている人は多いと思うんですけれど、でも、根っこに、作る人とか、考える人とか、材料を仕入れる人とか、材料をつくってくれている人もいる。根っこは、人なんです。だから僕がこだわるのは地上の木ではなく、根っこです。しっかりとした地盤さえつくれば木は勝手に生えてきます。ちょっと待ってくれよというぐらいたくさん(笑)。

近江八幡

面白い偶然が重なっているんです。僕たちはもともと「たねや」ですよね。種から芽が出て、バームクーヘン(木の幹)が大きく育って、今はリーフパイ(葉)に力を入れています。さらにチョコレートやゼリーで「実」をつくっています。順序が植物の生長の通りになっているんです。

それに、クラブハリエのハリエの意味。ハリエ=玻璃絵とは長崎のガラス絵のことなのですが、ひとつひとつ異なる色のガラスを貼りあわせ、一枚の絵になっているものです。僕はそのひとつの色で、他のシェフや社員たちもひとつひとつの色。それがみんな集まって一枚の絵になる。それがハリエだと思っています。

人が育つ場所

ひとりひとりが根を張って木となれる場をつくりたい。
10年後は、きっと今想像している未来とは違うはず。
焦らずにやっていきたいと思っています。

近江八幡

ラ コリーナも人が育つ場所にしたいと思っています。僕は全世界が商圏だと言っています。「日本のあのすごいケーキ屋を見に行こう」となるべき場所にするためにプロジェクトを進めています。そのためには、ここでしかできないことを考えています。

ひとつは農園です。農作業をして農産物をつくり、それをそのままお菓子にするところはたぶん他にないと思うんですね。たとえば、いちご畑のケーキ屋さん。いちごが採れなくなったら店は閉めてもいいんです。ブルーベリーならブルーベリーのお菓子屋さん。そういうお店をつくってみたい。

でも、これは僕が思っている夢です。僕以外のシェフにもそれぞれやりたい夢があると思うんです。それを叶える場所でありたいなと思っています。ジャムをやっていきたいっていう子がいたら、ジャム専門店をつくってもいい。ハーブティーをやりたいなと思っている子がハーブティー専門のお店を出してもいいだろうし、シュークリームは俺に任せとけという人が出てくれば、シュークリーム専門店ができてもいい。

ひとりひとりが根を張って木となれる場をつくりたいんです。でもあまり焦ってはいません。10年前の自分は今の自分を想像できていませんでした。だから10年後は、きっと今想像している未来とは違うはずです。焦らずにやっていきたいと思っています。

ページトップ