社是
他人さまには幸せを、そして自らには厳しい鞭を。ここに商人としての真の道がある。
人の在る処、必ず道がある。だがその道は、自らが求め、すすんで拓かねば、決して開けるものではないとの先人の教えを道標として、たねやはひたすらに歩んで来た。そしてこれからも亦、その正道を歩み続ける。
額に汗をなして懸命に道を拓け。流れ落ちる汗の玉の光こそが、健やかに働ける喜びの証である。健やかに働ける事がどれほど有難い事か。感謝を忘れず、日々心を新たにして歩み続けよう。
我が行く道も、この健やかな身体も、仕事も、全て人さまのお蔭。父母をはじめ、我を導き給いし多くの師、先人、我が友人など、世の人々の温き心をいただきてこそ。決して忘れる事勿れと訓え下さりし先人の心に応え、今日も道を確かめつつ歩んで行こう。
走ってはいけない。けれど止るのは尚愚かなこと。ただひたすらに、我が先人の言の葉を守りつつ、今日も生活をすすめよう。
人には誰しも喜怒哀楽の心がある。それは自然の理なれど、喜びの心を力にして、更に前へ向う心を養い、怒りの心は自ら鎮めて努める心に、そして哀しみを知るなればこそ、他人に思いやりをかける愛の心を育くみ、楽は己のみならず、他人さまをも楽しませる豊かな心と為せるほどに、自らを研き、高めて行こう。
菓子の源は果子。自然の恵み、黄熟の実果よりいただきしものなれば、天の下されし我が生命の元と心得よ。商いは、黄熟の実果をもって、山川を越え、谷を渡って、己が求めるものと交しに行きし事よりはじまるなれば、生命がけ。お客さまは生命の親、お客さまあってこそ、生きる事もかなうとの先人の心を我が心となして、今日も亦、精魂こめて歩み商いゆかん。
天平棒を肩に、八方の街道を歩まれし先人は、更に教え給う。商いの荷は往復天平なるべきこと。空の荷はゆるされぬ。さりながら、戻り天平の荷は商う為のものではなく、選びに選んで、お世話になりし世間の皆々さまへのお礼心の荷をのせて戻るべしと。天平を支える芯柱は正直の心、感謝の心、自らすすんで努力する心、倹約の心、親切、陰徳の行である事を肝に銘じて、商いの道に起て。
この心を忘れずば、近江商人の世渡り、生きざま、商いの実は、小さくとも世の一隅を照らす光となり、やがては不滅の灯火を高々と掲げ、その道もまた奥味に達するであろう。
「今」は再び戻らぬ刻である。今をこよなく大切に、常に新しき商い、新しき福を世に送らんと、求め、求めて歩むべし。
禅句に曰ク
十二時に使われず
十二時を使得すべし
重ねていう。今日如何にお客さまにお喜びいただくか、これこそが商いの真髄なり。数字のみを追うは真の商いにあらず。心を砕き、身を低くして、客さまへの礼をつくすべし。
池は、月を映さんが為に開くにあらず。池成れば、月は自ら訪れ来り、その姿を池に映し下さる。見返りを求めて事を為さず、ただひたすらに、己が信ずる正しき道を歩むべし。実りは真実あるところにこそ、訪れ来るものなり。之ぞ我が末廣正統の道標なり。
心して守り、確かな足どりを以って歩み続ける事を誓わん。