8月27日に開催した滋賀経済同友会第2回「MLGsと私たち」部会において、東京大学総長特別参与 沖大幹(おき たいかん)氏と対談しました。
私が部会長をつとめる「MLGsと私たち」部会ではMLGs(マザーレイクゴールズ)の活動の共有と実践の機会の拡大を目的としています。
8月の部会では国連会議での制定を目指す「世界湖沼デー」のムーブメントとして、「世界湖沼デー」キックオフシンポジウムを開催。台風の接近をふまえ急きょオンライン開催となりましたが部会メンバーや県、団体、高校など50名の方にご参加いただきました。
水資源管理の世界的な専門家である沖氏との対談では、琵琶湖の持続可能な管理や「世界湖沼デー」の意義についてお話をうかがいました。一部ではありますがご紹介します。
世界の湖沼とその現状
ーー本日はよろしくお願いします。まず、先生の研究領域である水文学についてお教えくださいますでしょうか。
沖大幹氏(以下 沖):水に関する森羅万象を扱うのが水文学です。
対象は地球物理学的な話もあれば化学的な話、あるいは生き物と水との関係といったものも含むような学問分野ということになります。
ーー世界の水や河川、湖沼の状況はどのようになっているんでしょうか。
沖:やっぱり最大の湖の問題はアラル海ですね。40年、50年前には世界第4位の大きさの湖だったのが1/10ぐらいの面積になってしまった。あとは、アフリカにチャド湖って湖があるんですけれども、自然の変動に応じて大きくなったり小っちゃくなったりする。
世界の湖と言っても色々で問題も色々。お日様がどのぐらい照って雨がどのぐらい降るかじゃなくて、そこで人がどういう活動をするかで環境は成り立ってる。自然と人が一体となって環境を作ってるってことですかね。
バーチャルウォーターとウォーターフットプリント
ーーご著書にある「バーチャルウォーター」と「ウォーターフットプリント」。私はじめて聞いた言葉だったんですけれども、ご説明いただいてもよろしいでしょうか。
沖:「バーチャルウォーター」というのは、水資源が少ない国でも海外から食料を買うことで自分の国の水をあんまり使わずに済んでいる。食料の輸入は水の輸入のようなもんだということで仮想水(バーチャルウォーター)っていう名前がついてるんです。
「ウォーターフットプリント」は製品を作るのに使われた水の総量です。例えば100gの牛肉だと、牛が食べる餌が育つのに含まれてる水が100gの2万倍。風呂おけ10杯分ぐらいの水を使って育った草を食べた牛の肉を私たちが頂戴してるっていう計算になります。
ーー実際には見えない“水”がたくさんあるということですね。
沖:飲んだり、体洗ったり、服洗ったりしてる水よりも食べるものを作るのに使われてる水が多い。これ、パイプで送られてきてるので気づかないですけど200L、200kgですから。家族4人だったら 800kg。とうてい運べないわけですね。
普段気にしなくてよくなってる日本がありがたいという風に言えると思いますけども、時にはそういうことに思いをはせるのは非常に大事なんじゃないでしょうか。
世界湖沼デーについて
ーー世界湖沼デーが制定される意義は何だと思われますか?
沖:世界湖沼デーが、1984年に滋賀県で行われた第1回世界湖沼会議にあわせて8月27日と世界が認めてくれるって非常に誇らしいと思います。
ですけれども、世界湖沼デーが作られたら毎年ちゃんとイベントをして大事さを互いに共有していく。継続的な努力というのをやる目安の日ですね。それがなければ「今年忙しいからやめとこう」みたいになると思うんです。「いや、世界湖沼デーだからやりましょう」と、ちゃんとやらなきゃいけないという風に、自分たちを縛るのにいいんじゃないでしょうかね。
琵琶湖のモニタリング
ーー琵琶湖の水の資源を持続可能に管理するためどのようなことをすべきか、ご指導いただけるとありがたいです。
沖:すでにマザーレイクゴールズで色んな目標を立てて真面目に取り組まれているので、そういうのをみんなで共有することに加えて、琵琶湖を折りに触れてみて、眺めて、モニタリングするっていうことが大事だと思うんですね。
毎日のように触れあって、「おかしい」と思った時にみんなで調べて、問題であれば早めに対処していく。“見る”“モニタリングする”を行政、企業、市民わけへだてなくやってく、というのがものすごく大事なんじゃないでしょうか。
沖:やっぱり現地で喋るってのはすごく僕大事だと思ってまして。
それぞれ歴史的な背景とか文化的な背景が違うので、同じものを見ていても見えてないんですよ。なので、僕らに見えないものが見えてる人に教えてもらう。教えてもらったら次は知らない人に教える。それが広がって“みんな琵琶湖博士”みたいになってくのが非常にいいんじゃないでしょうかね。
世界が“つながる”方法
ーー“つながる”というのがキーワードですね。世界湖沼デー、この世界が“つながる”方法っていうのはどういったところでしょう。
沖:お互い好奇心を持って相手のこと知りたいと思うってことじゃないですかね。
言葉の壁はあるわけなんですけれども、恥ずかしいと思わないで、身振り手ぶりでもいいから喋るってところからはじまる。それは相手に対して「私はあなたのことに関心あります」っていう気持ちのあらわれじゃないですか。
持続可能な開発の3側面
ーー「MLGsと私たち」部会では「多彩な人とつながり、学び行動すること」を今年度のゴールに置いてます。10年、20年先を見据えた琵琶湖の保全と持続可能な経済発展のビジョンについて、アドバイスをいただけるとありがたいです。
沖:日本だと“持続可能な開発”って環境のことを配慮するっていう面が強く出すぎてると思うんですけれども。2015年にSDGsが書かれている「アジェンダ2030」という文書には「経済、社会、環境これが持続可能な開発の3側面」だと書いてあるんですね。
環境だけを保全すればいいわけじゃないし、経済も成長しないと環境も守れない。経済成長にあたって社会的な弱者を生んじゃいけないし、ギャップをできるだけ削減していこう。これが持続可能な開発の心だと思うですね。
沖:琵琶湖で何をやるかなんですけれども、湖の岸辺から眺めるだけじゃなくて、中に船で行く、そういう遊びもいいと思うんですね。
あとはちゃんと保全していかないといけなくて、それには費用がかかりますよ。誰かが、環境ボランティアが無償でやってくれればいいじゃないかってのは、ちょっと僕はどうかと思います。他の人の努力や工夫に対してはそれなりの対価を払っていくことが、結局は持続可能な保全につながっていくと思うので。
ーー水って本当に蛇口ひねったらジャブジャブ出てきますから、そこにお金がついてる概念ってあまりないですし、管理も人任せになってしまってることがあります。まずは何事も考えて、意識して、楽しみながら、経済・社会・環境のバランス崩さないよう色んな人とつながって、未来を楽しく作っていけたらいいなという風に思いました。
今日は貴重なお時間をありがとうございました。
沖:ありがとうございます。
対談動画の視聴後、参加者がそれぞれ“未来を見据えた大きな目標”を掲げ「世界湖沼デー」キックオフシンポジウムの終了としました。
琵琶湖という豊かな恵みをどう未来に伝えていくか。滋賀経済同友会「MLGsと私たち」部会の活動を通して多くの方々とともに考え、これからも行動していきます。