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「たねやのあんこ」を めぐる旅
お菓子の素材は
自然の恵み
お米や小豆、栗や黒糖、寒天など和菓子に使う素材は自然の恵み。
なかでもあんこの原材料となる小豆は、和菓子の命ともいえる大切な素材です。
ふくみ天平をはじめ、どらやきや末廣饅頭などたねやのお菓子に欠かせない「あんこ」。そのおいしさは和菓子職人だけでなく、素材を育む人々にも支えられています。
風味豊かな小豆がお菓子となるまで…「たねやのあんこ」をめぐる物語をご紹介します。
小豆のふるさと北海道
「たねやのあんこ」に使う小豆は、北海道東部、十勝地方の契約農場で育てられています。
広大な土地に恵まれた北海道のなかでも、十勝地方は小豆の成長期にあたる初夏から秋にかけての気候が安定し、日照時間も長いことから、小豆栽培に適した土地です。
十勝の“赤いダイヤ”
契約農場では毎年5月ごろに小豆の種をまき、9月から10月に収穫期をむかえます。
秋が近づくころ十勝地方では朝晩が冷え込みはじめますが、この昼夜の気温差もおいしさの秘けつ。夏のあいだに茂った葉が枯れ落ち、茎とサヤがカラカラに乾燥すれば豆が成熟した合図です。
小豆の収穫は大きな機械で苗を地面から切り取ったあと、別の機械で小豆の苗ごと拾いあげ脱穀します。サヤの中には鮮やかな紅色の小豆がぎっしり。
北海道から近江へと
収穫された小豆は不純物を取りのぞき機械で選別されます。たねやが主に使っているのは〈エリモ小豆(しょうず)〉や〈北ロマン〉。たとえ品種が同じでもお菓子によって使う小豆の大きさが異なるため、機械選別のあと手作業で粒が揃えられます。これはあんこを炊く際、均一に火が入るようにするため。いくら小豆の品質がよくても、粒の大きさが揃っていなければおいしいあんこにはなりません。
根気よくていねいに、何十万粒という小豆の色や形を揃える。“たねや規格”とも呼ばれる厳しい選別を経た小豆だけが、北海道から1000キロ以上離れた近江へと出荷されるのです。
たねやの〈心臓部〉
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粒よりの北海道産小豆を使い「たねやのあんこ」をつくるのは滋賀県東部、愛知川(えちがわ)製造本部にある製餡工房(餡場)。熱気の満ちる工房では毎日早朝から十数名の職人が黙々とあんこを炊いています。どこよりも早く仕事をはじめ、あんこを各工房に送りだす餡場はまさにたねやの〈心臓部〉。
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良質の小豆とともにあんこづくりに欠かせない素材は、水。 製造本部のある愛知川地域は鈴鹿山系から流れる伏流水に恵まれた場所です。北海道が育んだ小豆と、ふるさとの山々がもたらす豊かな水によって、ここでしかつくれない「たねやのあんこ」が生まれるのです。
餡炊き~たねやのあんこづくり~
あんこづくりは小豆の洗浄にはじまり、豆炊き釜で小豆を膨らませる“前炊き”、煮汁を捨てながら流水でアクをていねいに洗い流す“渋切り”、じっくり炊きあげる“本炊き”などさまざまな工程があります。
なかでも特に重要なのはおいしさを左右する前炊き。餡場の職人は小豆の一粒一粒が十分に水を吸い、芯までふっくらと膨らむよう釜の温度を細やかに調整します。
また、こし餡の場合は小豆の皮を取り、中身の呉(ご)だけを何度も水にさらし不純物を取りのぞきます。呉の水分を絞ってできる生餡がこし餡の原料。このように、つぶ餡とこし餡で餡炊きの工程は異なります。
たねや 餡炊きの工程
前炊き
豆を炊いてふっくらとふくらませる
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洗浄
洗浄して汚れを落とすことで小豆が給水しやすくなる -
びっくり水複数回
水を入れ温度を下げ再沸騰させる。
豆のシワが伸び、芯まで均一に火が入る -
渋切り1度のみ
小豆の皮に含まれる渋みやえぐみを除くために煮汁を捨てる
本炊き
豆が踊らないよう落し蓋をして
やさしく火加減しながら炊き上げる
粒餡
こし餡
生餡
煮豆を水にさらし皮と呉に分ける
呉を絞って生餡をつくる
餡炊き
砂糖を加え、餡を練って香りとツヤを出す。
粒をつぶさないよう丁寧に混ぜる。職人がつきっきりで炊く
餡炊き
砂糖を加え、餡を練って香りとツヤを出す。
口当たりよくなめらかに仕上げる。職人がつきっきりで炊く
粒餡
こし餡
あんこは和菓子の数だけ
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餡場では1日に2~2.5トンのあんこをつくりますが、一度に大量に炊くことはしません。例えばふくみ天平用の粒餡は1回1斗(15㎏)を24回、複数の釜を使い小分けにして炊いています。これは職人が火加減などを細やかに調整し、納得のいくあんこを炊くため。
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また、どらやきやお饅頭などお菓子ごとにあんこの甘さや硬さも変えています。大切にしているのは生地やお餅といった素材とあんこの一体感。
お菓子にあわせ炊き分けるあんこには、小豆の風味を活かすとともにキレのある甘さが必要です。このため雑味のないグラニュー糖を使うのも、たねやのこだわりのひとつです。
見極めること、
見直すこと
お菓子ごとに使う小豆の品種や配合は決まっていますが、それを守るだけでは「たねやのあんこ」にはなりません。
小豆を炊く時に入れる“びっくり水”のタイミング。本炊きの際、豆をつぶさないように炊きあげる火加減。その日の天候や小豆の状態などを見極めた細やかな調整も必要です。
こうした日々のわずかな変化への対応は経験に基づく職人ならではの感覚。
あんこの配合そのものも1年ごとに見直しています。毎年12月、その年に収穫された小豆を北海道から取り寄せ、豆の特性や味を確かめたうえでお菓子それぞれの配合を決めていきます。年によって気候や成育状況、収量が変わるからこそ、その時々で最良のものを使い、職人の経験と工夫で求める味をつくりあげていくのです。
つくり手とのつながり
お菓子の素材は自然の恵み。素材がどこで、どのように育てられているかを知ることは、素材のより深い理解につながります。
そのために職人は小豆のふるさと北海道にも足を運び、栽培環境を自らの目で見、農家の方々とさまざまなことを語りあいます。このとき欠かせないのは小豆を使ったたねやのお菓子。育てていただいた素材がどんなお菓子になったのかを、たねやのお菓子に籠めた思いとともに伝えます。
これからもともに歩みながら、おいしいあんこをつくり、お菓子を届けてゆくために。職人はお菓子を携え、小豆のふるさとへ向かうのです。
小豆をめぐる旅のようす:素材をめぐる旅