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ラ コリーナ日誌

人と自然が主役の建物です(5)

Text : 事業部

  • #キャンディーファーム(農藝)
ラ コリーナ近江八幡のベースキャンプとも言える、たねや農藝。建築設計をしてくださった京都大学准教授 小林広英先生へのインタビューです。 最終回は、みんなで作った建物であること、そして、風土建築につながるお話です。 ※第四回目の内容はこちら。

■みんなで作った工房

今回のたねや農藝は、店舗ではなく、工房や栽培の施設ということでしたが、やりやすかったですか?
小林 みんなが想像しやすいステレオタイプがないぶん、イメージを共有するまで時間がかかりましたが、面白かったです。
わからない部分については、前にもおっしゃった、社長との対話というのが重要だったと。
小林 そうですね、あと園長の木澤さんなど関係者の方々の意見の断片を統合していくような。
なるほど。
小林 みんなが頻繁に集まって、現場で確認したりしながら決めていくという感じでした。
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小林 社長は、本当にこだわって取り組んでおられました。打合せ中の何気ないコメントでも、はっとするようなことが多かったです。
どんな部分でそれを感じられましたか?
小林 たとえば、アプローチ導入部のゲート的においている鉄板の話。設計では二枚分でお願いしてやってもらってたんですけど、現場で見るとちょっとのびやかさがないなーと思っていたんです。そうすると社長も同じく、「もう一枚いるやろう」と。「二枚じゃなくて、三枚にせんと、この建物ののびやかさに合わへんやろ」と即座に言われる。それだけ見るんじゃなくて、建物や敷地全体を意識しながら言われる。関わるみんなが全体像を共有しながら作っていくという点で、毎回が真剣勝負でした。
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小林 だから、「みんなが作った」という感覚ですよね。社長のもつ全体的なイメージや運営や機能面でのこと、中谷さんたちの技術的な支援、木澤さんたち農園の方々の仕事内容など、それぞれの立場で意見を出し合いました。
まさに、みんなで作ったと。
小林 あと、工房棟の屋根にある植物はたねやの従業員の方々が植えた草花でつくられているんですよね。竹林の整備活動やどんぐりプロジェクトなどいろんな場面で、建物やそのまわりの要素に関わっている。風土建築が集落住民の合力でつくられるように、たねや農藝もいろんな人が協働してできあがった結果として存在しています。
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小林 建物が完成して現在徐々に動き始めています。建物に人の活動が加わることでまた違った印象を与えます。そういうのを見るのはやはり楽しいですよね。
今回インタビューさせていただくにあたり、建築のここがこだわりで、ここがすごいから見てくれ、といった、そんな話になるのかなと思ってお会いしに来ました。でも、みんなでやっているということこそが面白いとおっしゃって。すごくびっくりしたと言いますか、とても感激しています。

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■おおらかな感覚。素材を活かす。

小林 そうですか。でも、もちろん二つの側面があるんですよ。時間をかけて検討したスケッチもいっぱいあります。その一方で、ベトナムなどの風土建築に関わってから、なんかこれでいいんやっていう即興的な感覚もでき始めたんです。
と、言いますと?
小林 彼らには図面もないし、使う道具も鉈(なた)ぐらいで、それでもさっさと構造体を組み上げていく。一見ラフに作っているようで、でもそれが、すごく綺麗なんです。また、一方で壁材に精緻な編み竹を用いたりもします。
なるほど。
小林 そういうおおらかさと精緻さのバランスみたいなものが、まだまだですがなんとなくわかってきたような。若いときは細かく描いた図面通りにいかないと気持ち悪かったのが、今では、まあええやん、ずれててもみたいな感じです。
心地よかったらいいやん、というような。
小林 はい。それでも、美しさというか、クオリティをキープできるのだという感覚ですね。
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美しいと感じる、その感覚はどこから来るのでしょう?
小林 木の材料をつかうというのが大きいかなと思います。木にミリ単位を求めても絶対ずれてきます。
たしかに。
小林 やはり素材感に戻ってくるんですけど。素材を考えたときの適正な使い方っていうのと、その素材を理解した配列とか、形とか、そういうふうなことを考えてやると無理なく見えてくる。ベトナムで荒削りした丸太の柱がいくつも無造作に立っている風景は、ゆがんでいるけど素材が良いからきれいに見える。
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お菓子づくりでも、たねやグループはとても素材にこだわっています。素材を活かす、素材の良さを引き出せたら美味しいものになる。そういう共通する感覚や感性が、あるかもしれません。
小林 気が合うかもですね。
十分あっていらっしゃいます(笑)。
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小林 そういえば、手すりのデザインは社長も気に入っておられました。微妙な位置にもこだわって。
しっくりくる納まりを探すというような…
小林 それがビシッとした緊張感につながってきたりします。ものすごく繊細に気を使う部分もありました。
おおらかな部分と、洗練された部分と、ですね。
小林 私自身、今回の設計を通して、ベトナムなどの再建プロジェクト、バンブーグリーンハウス、たねや農藝の実践活動がひとつの軸線上にあるという確認ができました。場所や状況が違っても地域環境と建物が密接につながって出来上がるという経験です。遠い国の山奥にある建物とこのたねや農藝。あちらは原初的でこっちは現代的みたいに別物ではなく、一緒に対峙できる存在であるということです。このようなテーマは今後ももっともっと追求して実践していきたいですね。
IMG_8524   五回に分けてお届けしてきた小林先生へのインタビュー。お話をうかがって印象的だったのは、地域の資源を使いながら、竹の循環利用もひっくるめて取り組むことができたことに、たいへん喜びを感じていらっしゃるということでした。そして、社長をはじめ、みんなで対話を重ねながら真剣勝負で作りあげたということ。 里山の利用や再生といったことが、絵空事ではなく、企業活動の中で実際のこととして動き出していることは、本当にすごいことだなと思います。近隣の方々との交流もふくめ、ここの中だけにとどまっていない、とても広がりのある取り組みが生まれてきていると感じています。 たねや農藝は、自然とともに成長し続ける場所。人と自然が主役の建物。 普遍的で根源的な何かを感じさせる、ある意味でとても挑戦的な建物ではないでしょうか。ここが、“人や自然や知恵”が、とめどなく循環する場になればと思います。ありがとうございます。