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ラ コリーナ日誌

素材をめぐる旅 よもぎの香り編(下)【滋賀・立命館大学】

Text : 讃岐和幸(たねや農藝 永源寺農園)

  • #素材をめぐる旅

みなさまによりおいしいお菓子をお届けするために、よもぎの香りの深層に迫る旅。 立命館大学薬学部教授の田中謙先生にお話を伺いました。田中先生のご専門は生薬学、天然物化学。 昆虫と植物が相互作用を研究し、品質の高い生薬をどうやって作るかなどを研究されているそうです。

昨年からスタートした共同研究

今回はご縁があってたねやのお菓子に使っているよもぎの香りについて研究をお願いしました。 当初はどういった印象を持たれていましたか?
田中 植物は自然の中で自分たちに優良な成分をつくります。それを人が健康に寄与するなどとして利用しているのです。植物は決して人のためというわけではなく、自分が生きるためにつくり出している。こうした実際の生理反応を我々がうまく利用するというところがあって、その一例として、お菓子の分野でどういう状態のものがお菓子に良いのか研究されていて、非常に興味がありました。

共同研究は2017年5月からスタートしました。 よもぎの香りは成長段階でどう変わっていくのか、茎の上・真ん中・下のどの部分の葉っぱのが良いのか、 収穫時期によってどう違うのかなど、異なった条件下のデータを収集するため、定期的によもぎを採取して、研究室へ送らせていただきました。

よもぎの香りについて具体的にどんな工程でどういったことを調べていただいているのでしょうか?
田中 この葉から成分を抽出して、ガスクロマトグラフィーという方法で分析しています。よもぎが春から夏、秋にかけてどういう成分の変化をしていて、経験的にたねやさんがこの時期のよもぎが良いとご存知のものがあって、その時はどういう状態にあるのか。今までの経験で蓄積されていた情報を科学的に解明、分析することで分かったことが、今後よもぎを生産する上で安定的によい規格のものがつくれる、といったことにつながっていく。そういうところに寄与できたら良いと思います。

昨年1年調べていただいて、分かってきたことは?
田中 春先からだんだん成分が増加し、秋になると収束して元に戻ってくるという一つのサイクルがある、ということです。去年の分析では、増えていくパターンが何通りかあり、よもぎの中でも性格があって、増えて減っていくという経過や最初のスタートポイントは似たところがありますが、それぞれ違う小部屋に向かって伸びていく。そういったことから、香りの成分として人が匂った時に違う感覚を受けるだろうということですね。

生薬とお菓子

たねやでは新たに“健康×お菓子”という分野でも開発を進めています。 先生のなかで何かお菓子づくりに活かせそうだという植物はありますか?
田中 生薬には、実は食材とかぶっているものが多いんです。ショウガ、ナツメ、サンショウ… ただ、例えば薬に使う金時生姜は食材のショウガに比べて薬効成分は多いですが、非常に辛い。 味が大事なお菓子にとって、苦みや辛さが強いと難しいのではと思いますね。 それがうまくコントロールできれば高い機能を持ったお菓子がつくれるのかもしれないですね。
なるほど。とても参考になります。
田中 ナツメは大棗(たいそう)とも言われ漢方薬の30%含まれていますが、実としても非常に美味しい。また、ミカンは温州みかんの皮やダイダイの未熟な果実を漢方薬にするのですが、皮を使ってみるというのもおもしろいかもしれないですね。ただ、こういった生薬には食薬区分があり、何でも食品として使用できるわけではないので気をつける必要があります。

心の健康が体の健康に

よもぎの成分にはどんな特徴があるのですか?
田中 主なものとして殺菌成分があげられますね。 また、もぐさ(よもぎの葉の裏にある繊毛を精製したもの)がお灸に使われていることも有名です。 よもぎなどのキク科は、植物の中では進化が進んだ植物で比較的高活性の成分を多く含んでいます。

昔からよもぎ餅などにして食べられてきたことも、人々の知恵ですね。
田中 漢方では“心身一如(しんしんいちにょ)”と言いますが、心と体が一体で、心が健康である状態が体も健康にするという考え方があります。おいしいものを食べてハッピーになれば、それは体にも良い影響を与える。そういうことと関係しているのではないでしょうか。
その考え方にはとても共感します。よもぎは香りもとても良いですよね。
田中 漢方薬は煎じた時にかなり強い臭いがします。実は、あの香り自体が薬であって、あたたかく香りが立った状態で飲まないとだめなんです。臭い、香りというのは重要で、そこから刺激を受けて健康や自己免疫を立て直すことにつながる。そのなかでも、香りを楽しむというのはとても重要なんです。


今回田中先生から教えていただいたことは、私たちたねやが長く大切にしてきた“お菓子を季節と共にお届けする”ということと、不思議と通じるものがあると思いました。 季節をお届けするということは、旬の素材のおいしさをお菓子に込めるということ。それは決して味だけのことではなく、季節の香りや彩りをお菓子を通して感じていただくということです。 そして、その体験が人々の幸せにつながってほしいと、まさに“心身一如”を願ってきました。

お菓子づくりと科学。一見共通点はないように見えますが、私たちが持たない科学的な技術や技能に力を貸してくださるとても心強い存在であると、今回改めて感じました。こうした様々な分野のエキスパートにご協力いただき、これからも“よりおいしいお菓子”を追求する旅を続けていきます。

田中先生、学生のみなさん、研究室にお招きいただきありがとうございました。 これからもよろしくお願いします!
※よもぎの香りの旅(上)【滋賀・立命館大学】もあわせてご覧ください。